C O N T E N T S

ヨーロッパの移植事情
  ユーロトランスプラント(ET)を中心に
  ・ユーロトランスプラントの設立
  ・ETの目的と活動
  ・待機患者と臓器提供の傾向
  ・臓器提供に関する法制度
  ・コーディネーター教育プログラム
  ・一般向け教育とPR活動
  ・ドナーカードの配布


ヨーロッパの移植事情

■ユーロトランスプラントを中心に

ユーロトランスプラントの設立

 ユーロトランスプラント(EUROTRANSPLANT:ET)はオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、ドイツ(1991年7月以来、東西統合)、オーストリアの5カ国の移植施設が参加する臓器移植ネットワークである。対象人口は計約1億2000万と、日本の人口にほぼ等しい。1967年、世界で最初の腎移植ネットワークとしてスタートして以来、27年の歴史を持つ。
 本部はオランダのライデン市にあるライデン大学の中に置かれ、ヨーロッパの保険会社協会の出資で運営されている。
 ヨーロッパには他に国際ネットワークとしてスカンジアトランスプラント(北欧3国とデンマーク、アイスランド)があり、フランス、英国、スペインなどは、それぞれ国内のネットワークをつくっている(図1)

 ETはこれらのネットワークと姉妹組織として、非常に密接な関係にある。臓器が提供されたがET内にはふさわしいレシピエントがいない場合、これらの姉妹組織に搬送され、この中でも適合者がいない場合はイスラエル、ギリシャ、トルコなどへも送られる。

ETの目的と活動

 ETの設立の目的は、1.ドナーの臓器の最大限の活用を図る、2.HLA検査によってドナー・レシピエントの最適の組み合わせを見いだし、移植成績を向上させる、3.移植結果を追跡調査し評価することである。
 そのためにETでは、1.技術と抗HLA血清の標準化、2.移植希望登録者のデータ更新、3.短時間、最小の労力で行えるレシピエント選定方法の開発、などに取り組んできた。
 ドナー情報受付とレシピエントの選択は、総合情報センターで行われ、ここでは30人のスタッフが働いている。ドナーが発生し、本人のドナーカードが見つかったり、家族の同意を得られた場合には、ドナーに関する情報がユーロトランスプラントに送られ、最寄りの移植センターから移植コーディネーターが派遣される。コーディネーターが救急医の仕事を引き継ぎ、家族に対して提供に関するアドバイスを行うという形をとる。
 一方、ドナーの血液型、HLAなどの情報がユーロトランスプラントに送られると、センターのコンピュータに登録されているレシピエントの中から、腎臓ではHLA、心臓、肝臓では緊急度、サイズ、距離などの要因によって、適合する相手を選択する。最終決定は当番の医師が行うが、コンピュータ操作が大きな部分を占めている。
 ET内では1967年に腎臓移植を開始し、その後、角膜の移植にも着手した。1982年心臓移植、1984年心肺移植、1987年肺移植が行われるようになった。
 1970年代末から1980年代にかけて、腎臓だけでなく多臓器(心臓、肝臓、膵臓等)を対象とするようになり、移植コーディネーターの役割が非常に重要になった。

待機患者と臓器提供の傾向

 1992年には、移植待機リストに載っている腎臓病患者は12,000人近いが、実際に行われた腎臓移植の数は約3,300件となっている。これは脳死からの死体腎提供である。待機患者と移植数のギャップは年々大きくなっており、待機リストに載る患者数が増えている。
 ET創設以来25年間に6万人以上の腎臓病の患者が登録され、約4万件の移植が行われた。この中には2回目、3回目、4回目の移植を受けた人も含まれている。
 心臓移植の待機患者は1992年では1,400人、1993年では1,500人ぐらいだが、移植ができるのはその約半分で、残りの半分は移植待機リストに残っているか、死亡したか、ないしは病気が進行し、移植ができる状態ではなくなったということになる。
 肝臓移植では年間約1,000人の患者のうち、移植が行われるのは約700人である。
 人口100万人あたりの臓器提供数を国別に比較してみると、死体腎では一番数が多いのがスペインで43、オーストリアが41、ルクセンブルグ、アイルランド、ポルトガル、ベルギーと続いている。死体腎で43というのはかなり高い数字である(図2)。

 心臓では、ポルトガルが2と少ないが、これはまだスタートしたばかりのためである。ルクセンブルクでは13、オーストリア約12で、オーストリア、ベルギー、フランスなどは、だいたいトップの位置にいる(図3)

 肝臓の場合も同じ傾向で、スペインが100万人あたり14、ベルギーが約13、オーストリアが12.5、フランス12.3、米国12.1。オランダとドイツはユーロトランスプラントに参加しているが提供数は少ない(図4)

臓器提供に関する法制度

 オーストリア、ベルギー、フランス、スペインで臓器提供度が非常に高いのは、推定同意の法律があるからだといえる。「推定同意」とは、拒否の意思を表明していなければ自動的にドナーとみなされるという制度である。オーストリア、ポルトガルではこの制度を導入し、臓器を提供したくない場合は、臓器提供を拒否するというカード(アンチドナーカード)を持っていなければならない。
 ベルギー、フランス、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルグ、スペインなどにも、推定同意の法律があるが、ここでは臓器提供をしたくない場合、市役所で登録することになっている。システムに照会して名前が登録されていなければ、臓器提供を拒否していない、とみなされる。しかし、実際には家族や親戚が拒否すれば提供はできない。
 デンマーク、フィンランド、スウェーデン、英国、アイルランドでは、インフォームド・コンセントによって提供が行われる。
 ドイツとオランダは移植に関する法律がなく、現在法制化の準備を進めているが、提供については遺族の意思が重要視されている。
 インフォームド・コンセントか推定同意かという選択は、それぞれの国の歴史や文化を反映している。たとえばオーストリアでは、約2世紀前に神聖ローマ帝国の女帝であったマリア・テレジアが、遺族の同意がなくても医師が認めれば死体の解剖ができるという法律を制定した。そのためにオーストリア人は、臓器提供に抵抗が少ないともみられる。

コーディネーター教育プログラム

 ヨーロッパでも米国でも、移植希望者に対する提供臓器の不足が大きな問題になっている。ETでは、その対策のひとつとして、臓器提供の同意を得るために家族にアプローチする医師、看護婦などに対する教育プログラム(EDHEP:European Donor Hospital Education Programme)を作成し、トレーニングを行っている。
 米国ではコーディネーターに対する教育プログラムに関して、心理学者の研究が行われている。その結果、医師や看護婦など臓器提供に関わる人たちが、家族に接する際に自信をもって対処している場合は、より多くの同意を得られることが分かった。
 EDHEPはこの研究を踏まえ、心理学者の力を借りて作成された。提供者が脳死になったとき、その家族にアプローチして臓器提供について問いかけるのは、「最も不幸な時間に、最も不幸な家族に対して、最も不幸な質問を」することである。医師や看護婦がそのような状況の中で自信をもって家族に接することができるよう、あらかじめトレーニングを行うわけである。
 プログラムはライデンの本部で1〜2日のコースで行われ、コーディネーターが参加する。プログラムの中で非常に重要なのはロールプレイである。悲嘆にくれる脳死者の家族の役を演じる者に対し、参加者が実際に臓器提供の話をもちかけるというシミュレーションを行う。参加者は受講後、自分の担当地域に帰り、提供病院の医師や看護婦に対して、受講した内容を指導する。トレーニングを受けた後は、提供者の家族に接する際に大変自信を持てるようになったという結果が出ている。
 このプログラムにはET以外のヨーロッパ各国からも参加しており、日本でも日本コーディネーター協議会の教育プログラムに採り入れられている。

一般向け教育とPR活動

 ETは一般向けの教育も重視しており、テレビ番組を通じて臓器提供についての啓発活動を行っている。
 また、臓器移植に関する情報提供のために財団をつくり、心臓財団、腎臓財団、赤十字、厚生省、ETなどから代表者が参加している。議長はETの統括責任者が務める。ここでは、ドナーカードを普及させ、一般を対象に臓器提供、移植について教育することを主な目的としている。
 一般向け教育の面で有効なのは、電話によるQ&Aである。テレビ番組で臓器移植が扱われたり、新聞で特集を組んだとき、質問したい人が電話をかけられるように電話番号を知らせている。「脳死とは何か」、「臓器提供をした後で、ちゃんと埋葬してもらえるのか」、「臓器提供に年をとり過ぎているということはないか」、「高血圧で薬を飲んでいるが臓器提供は可能なのか」というような質問が寄せられ、専門家が回答する。
 電話相談を始めて2、3年になるが、質問と回答を要約して冊子にまとめ、開業医、家庭医に配っている。また、欲しい人は誰でも入手できるようになっている。

ドナーカードの配布

 ドナーカードは、薬を処方してもらう薬局や、アスピリンを買いにいくような薬屋、一般の開業医や病院に置いて、誰でも自由に入手できるようになっている。ときには大きな立て看板を使ってキャンペーンを行い、ドナーカードについての情報をできるだけ多く提供する努力がなされている。
 登録制でないためドナーカードの普及率は正確には把握できないが、たとえばオランダで街頭調査を行った結果では15%程度とみられる。しかし、このうちドナーカードを外出の際に持ち歩く人の割合は半分くらい、実際の提供者のうちドナーカードを所持していた人の割合は5%程度と推定され、十分有効に活用されているとはいえない。


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